修士論文で桐生新町をテーマに研究。早稲田大学の和出好華さん、生業と景観の関係探る。
早稲田大学で都市空間・環境デザイン論を学ぶ和出好華さん(理工学術院創造理工学研究科建築学専攻修士2年)が、桐生新町を研究テーマにした修士論文を完成させました。タイトルは『生業文化資本の通時的継承による歴史的景観保全に関する研究‐群馬県桐生市桐生新町を事例として‐』。桐生の人たち約50人へのヒアリングと本町通りに面する建物230軒の調査を行い、生業としての繊維産業とまちの景観の関係性や、それを踏まえた保全の方法を探っています。論文の梗概を読ませていただきましたが、今後の桐生のまちづくりを考える上で多くの人に知ってほしい内容だと感じました。というわけで、この場を借りて少し紹介したいと思います。
▽論文のテーマとなった桐生新町(町立ての「起点」となった桐生天満宮から撮影)
論文では、元来は繊維産業の歴史とともに形成されてきたまちの景観が、現代において産業と乖離してしまったことに問題関心を持ち、両者の関係を見直すことで建物などを保全する仕組みの構築を試みたとのことです。分析や考察は多岐にわたりますが、特にここで取り上げたいのが、論文で「新ものづくり産業期」(2018年‐)と分類された時期の考察です。桐生新町やその周辺に若い世代の人たちが移住してきたり、新規出店したりしている直近の動向を学術的な視点から捉えている内容が大変興味深く感じました。例えば、こんな記述があります。
〝桐生の「ものづくりの町」という都市のイメージが広まっていることや、重伝建地区に選定されたことによって歴史的景観に魅了され、古民家での暮らしや働きを選択する人が参入してきていると考えられる〟(梗概より引用)
こうした新規参入を促す桐生新町の特徴を、かつての繊維産業が築いて現在に残した「まちの共通資本」と捉えています。加えて、新規参入に先立って、地域の人とのつながりをつくりやすい点も桐生独自の特徴としています。
▽有鄰館付近。天満宮からここまでが重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)に指定されています。
建物の調査から捉えた桐生新町は、1階のファサードが揃い、箱型のシルエットが並んでいる点が特徴的であるとし、こうした特徴の継承によって歴史的景観の連続性が担保されていると分析しています。また、かつての産業の名残として、建物内の柱のない大空間や、通りに接する面のガラス張りを挙げ、これらが新規参入を促す基盤になっていると分析しています。
このほか多様な視点からの分析や考察を積み重ね、結論として、時代の変化を許容しつつ、建物を使い続けながら歴史的景観を保全する「無理のない継承」の重要性を指摘しています。それはつまり、かつての生業としての繊維産業と、それが残した景観は時を経ても変わらない魅力的な資本であるということ、そして、その魅力が「新ものづくり産業期」に代表されるような新しい活動につながり、それがまた景観を次代につなげていく、ということだと理解しました。桐生のまちでそれが出来たら、とても素敵なことだと思います。
▽本町6丁目の商店街。桐生新町は6丁目の浄運寺を町立ての「止め」として整備されました。
以上、すべてを言い表すことはできませんが、印象に残った部分を中心に紹介させていただきました。繰り返しになりますが、やはり注目してほしいのは、この論文を書くために実施した約50人へのヒアリングと230軒の調査。これだけの熱意をもって桐生に関わってくれたこと、地元住民としては何より嬉しいですね。今、若い世代の人たちが桐生のまちに興味関心を持つ事例が増えていますが、その明確な理由や要因は、おそらくまだ誰も分かっていません。いち早くその点を分析したこの論文の視点は、今後の桐生のまちづくりを考える上で重要なヒントになるのではないでしょうか。この機会にぜひ皆さんも、まちの歴史や産業、景観、建物の保全、それから、若い人たちを惹きつける魅力について、自分なりの視点で考えてみてください。
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