群馬にLRTが走る日が来るのか?(上毛電鉄LRT化への考察)

最近、LRT導入を巡る2つのニュースが流れました。一つ目は1月25日に栃木県宇都宮市が2022年3月の開業を目指して整備を進めている「芳賀・宇都宮LRT」について、開業時期が1年程度遅れるとともに、事業費が226億円増額する見通しであると発表したこと。二つ目は2月9日に富士山に登山鉄道を走らせるための検討会で、富士スバルラインにLRTを走らせる最終案が了承されたというものです。

LRTとはいわゆる低床でバリアフリー化された最新型の路面電車の通称となります。

群馬にLRT
富山市で導入されているLRT

次世代の公共交通機関として注目が高まってきたLRTですが、実は桐生市でも導入の検討がされていたことをご存知でしょうか。LRT導入の検討は桐生市、みどり市、前橋市の3市でつくる上電沿線市連絡協議会によるもので、上毛線LRT化可能性調査として実施されました。2017年5月に公表された調査結果では「LRTの導入は困難」と結論付けられています。

ここからは桐生市議会等でのやり取りも参考にしながら、上毛電鉄のLRT化困難との結果について考察をしていきたいと思います。

上毛線LRT化可能性調査において、概算事業費はJR前橋駅-中央前橋駅間で118~122億円、JR前橋駅-中央前橋駅-大胡駅間で163~175億円、前橋駅-中央前橋駅-西桐生駅-JR桐生駅で220~239億円という結果が導き出されました。報道によりますと、上毛電鉄LRT化の旗振り役である前橋市の山本龍市長は「コストなど多くの課題が明らかになった」と厳しい見解を示したとのことです。それでは元々、どの程度の事業費に収まることを期待してLRT化の調査を開始したのでしょうか。2016年9月議会の桐生市議会 一般質問において参考となる答弁がありましたので下記に示します。少し長いですがご一読ください。

総合政策部長「富山ライトレールの事業費の財源につきましては、連続立体交差事業負担金、路面電車走行空間改築事業、LRTシステム整備費補助、幹線鉄道等活性化事業等を活用しておりまして、全体事業費58億円のうち国費約22億円、県費9億円、JR富山港線廃止に伴うJR西日本からの協力金約10億円、市費約17億円となっております。現在国からのLRT整備に対する財政支援につきましては、地方公共団体向けの社会資本整備総合交付金と事業者向けの地域公共交通確保維持改善事業補助金があり(中略)国費分がおおむね10分の5.5でございます。地域公共交通確保維持改善事業補助金につきましては、LRTシステムの構築に不可欠な施設の整備、ICカードの導入等に対しての補助であり、補助率3分の1でございます。また、LRTの整備を推進する地域で構成されるLRTプロジェクト推進協議会が策定するLRT整備計画に基づく事業に対しまして、国土交通省の関係部局及び警察庁が連携し、(中略)LRTプロジェクトの促進を支援することとされております。」

総合政策部長「(上毛電鉄のLRT化で)想定される事業規模ということでありますけれども、LRT化の検討区間につきましては、上毛線全線に加えJR線とのネットワーク化も視野に入れ、上電の中央前橋駅からJR前橋駅まで、また上電の西桐生駅からJR桐生駅までの区間を調査の対象としております。また、概算事業費ということでありますが、現在調査を行っているところでありますので、具体的な数値、数字を申し上げることはできませんが、ちなみに富山ライトレールの事業費を参考に試算いたしますと、約100億円程度になるという見込みでございます。」

つまり、当初の期待値としては100億円程度の概算事業費を見込んでいたことが分かります。それに対して、今回の最大239億円という調査結果は、相当高額と言えそうです。総延長の内、桐生市内は1/3、更に国からの財政支援が約1/2と考え、単純に1/6が桐生市の負担だとしても239億円の1/6ですと約40億円の市費の負担と言ったところでしょう。当初見込みの2.4倍まで膨らんだことになります。

概算事業費が膨らんだ大きな要因として、桐生市議会 一般質問で興味深い数字が示されました。それは、移転補償費などを含んだ道路拡幅に伴う工事の試算額です。具体的には、西桐生駅~JR桐生駅間が13億円(約300m)、JR前橋駅~中央前橋駅間が70億円(約1km)となっています。低コストでの導入が魅力のLRTの建設に、現状の車線数を維持するための大幅な道路の拡幅工事を想定することには違和感を覚えます。しかも、西桐生駅~JR桐生駅間は幅員11mを24mに拡幅するという過大な想定です。300mという短い区間ですのでLRTが走行する時間帯に限りトランジットモール化(公共交通と歩行者と自転車に限定し、自動車の侵入を制限する空間)にするなど、拡幅工事をせずに実現できる方法も十分検討可能です。

これらの道路拡幅費用(83億円)を除くと、概算事業費は137~156億円と一気に現実的な数値となります。桐生市の負担は23~26億円といったところでしょうか。では、なぜわざわざLRT化の判断に対して困難と捉えられるような試算方法を選んだのか。ここからは筆者の想像の域を脱しませんが、前橋市以外の沿線自治体(桐生市・みどり市)と上毛電鉄がLRT化に対するメリットを感じにくく、LRTにあまり前向きでなかったことに要因があるのかも知れません。自治体や上毛電鉄との温度差からの忖度の結果、挙げた手を降ろすため、直ちには実現が難しい数字をはじき出した。そんな想像が膨らみます。

さて、調査の結果「現段階では実現が難しい」という結論に至った上毛電鉄のLRT化ですが、そもそもLRT化そのものにはどのようなメリットがあるのでしょうか。一般的に言われるLRT導入の効果としては、低床式車両やホームのバリアフリー化による外出機会の増加、自動車交通に依存しないまちづくり、環境負荷への低減などが挙げられ、富山ライトレールの例では開業前と比較して1日当たりの輸送人員が約3,200人から約5,600人に増加しています。また、沿線のブランド力向上により、新規住宅着工件数が増加するなど、多くの経済効果も期待されるところです。

今回のLRT化の議論の中で私が桐生市におけるメリットと捉えていた要素は2つあります。1点目は西桐生駅とJR桐生駅までの接続による交通結節点の強化、2つ目は将来的にそこからさらに南進し桐生厚生病院までのダイレクトアクセスを実現することです。もしLRT化が実現して上毛電鉄がJR桐生駅まで延伸できたとすれば、将来的にJRの高架をくぐり、南口を南下し、桐生高校前(桐高と桐女の合併後の新設校)を経て桐生厚生病院までLRTを伸ばすことで、上毛電鉄沿線の医療需要をフォローことができると共に、県立心臓血管センターともドアtoドアでダイレクト接続され、沿線のブランド価値が大きく高まるものと考えてられます。

前橋市の山本龍市長は「導入を断念したわけではない」とも話していたそうですが、ひとまず現段階では難しいと判断されている上毛電鉄のLRT化。あらためてLRTが再び注目を浴びていることも踏まえ、23~26億円の負担が将来への投資として妥当かどうか、今後も調査・検討していく必要がありそうです。

参考までに、1月8日に開館した新市民体育館「桐生ガススポーツセンター」の建設費は約30億円となります。

上毛電鉄
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【投稿者:はたのね編集部】桐生を元気にする情報を発信していきます。

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