地元民が見た小説『リバー』の世界と奥田英朗さんの表現。桐生編

先日出版された600ページを超える物語の冒頭は「群馬県桐生市」で始まります。桐生のほか、渡良瀬川でつながる足利や太田を主な舞台とした奥田英朗さんの小説『リバー』(2022年、集英社)です。作中にこんな記述があります。「ますます桐生が好きになった。誇れる歴史があり、自然豊かで、人は温厚だ」。あくまでも登場人物の心情ではありますが、奥田さん自身も取材や執筆を通じ、桐生に対してそんな印象を持ったのかもしれませんね。

▽書籍のカバー写真はおそらく錦桜橋から中通り大橋側を撮影したこのアングル

夜の川の写真

ちなみに私は、恥ずかしながら今まで奥田さんの作品を読んだことはありませんでした。ただしかし、ノイタミナ枠で放送されたアニメ『空中ブランコ』は特徴的な作風と相まってとても好きな作品です(特にイップスの回と強迫神経症の回)。映画『ガール』も好きな作品です。そんな私が、ここから先『リバー』について物語の一部始終や感じたことを紹介していきたいと思います。

※以下、物語の核心には触れないようにしたつもりですが、多少のネタバレは含みます。

物語は10年前の未解決連続殺人事件を背景とし、それに似た手口の新たな殺人事件が起こるところから始まります。事件現場は桐生と足利の渡良瀬川河川敷、それゆえに『リバー』。書籍の帯には「川はすべてを見ていた」という印象的なフレーズが添えられています。この10年前と現在の事件をめぐり、刑事や元刑事、新聞記者、容疑者といった複数の関係者の視点でそれぞれの事実が語られていく構成となっています。

興味深かったのが、群馬と栃木という2つの県にまたがるこの舞台設定です。桐生も足利も、「県」という領域においては中央(県庁所在地)から離れたエリア同士で、この点は物語の展開にも少なからず関わってきます。著者の奥田さんがなぜこの場所を選んだのか、その意味を考えさせられました。川という自然のつながりがあり、人々の交流もある一方で、県境という人間がつくった区割りによって分断されている、そんな微妙な感覚。これは普段、この地域に住む私たちも生活の中で感じていることではないかと思いますが、そこを表現した奥田さん、さすがだなと思いました。

▽事件現場となった河川敷。「実業高校の河川敷グラウンドって言ったら、桐生南署のすぐ近くじゃないか」という台詞があります(施設はさすがに実名ではない)。

昼間の河川敷

それから、ちょっと余計なことかもしれませんが、地元民だから気づいてしまう違和感を2つ。1つは、もしかしたら錦桜橋がない世界線かもしれません。あるいは、錦桜橋が「中通り大橋」という名前で、本来の中通り大橋がないパターンか…。しかし、そうすると本町通りは「中通り」ということになりますが、別の場面では本町五丁目交差点が登場します。これについては、ちょっと確証がないのでこれ以上は分かりません。

もう1つは、桐生駅北口の西側約200メートルの場所にコンビニとネットカフェ兼漫画喫茶があります。これは確実に、はっきりとあります。現実世界ではペアーレ桐生VIEがあるあたりですね。西桐生駅方面に行けば実在のコンビニがあるのに、わざわざここにコンビニを設定した理由はなんでしょう。と、そうゆうことを考えるのも、地元作品ならではの楽しみ方のひとつです。

▽桐生駅北口のロータリー(左)から西へ行って、ペアーレ桐生VIE(右)のあたりにコンビニがある設定

桐生駅北口のロータリー

というわけで、紹介は以上です。この物語に描かれた私たちのまちのことはもちろん、好きな登場人物や感情移入した人物、そして終盤の急展開のあとで明らかになる結末の意味など、読み終えたらすぐさま誰かと感想を話し合いたくなる作品です。

(はたのね編集部 登丸貴之)

【投稿者:はたのね編集部】桐生を元気にする情報を発信していきます。

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