小説『対岸の彼女』に描かれた桐生。白髭神社と渡良瀬川の風景
もう何年も前のことになりますが、地域の人に「桐生の白髭神社が出てくる」と教えてもらった本があります。ふとそれを思い出し、読んでみました。第132回直木賞の受賞作、角田光代さん著『対岸の彼女』(文春文庫)です。のちに実写化もされていますが、この記事では原作小説に基づいて、作中に描かれた桐生を少しだけ紹介したいと思います。
作品には中心人物として2人の女性が登場し、1人の女性の視点で語られる現在と、もう1人の女性の視点で語られる過去が、交互に進行する構成になっています。この過去のストーリーの舞台が桐生のようです。いや、実は「桐生」という地名は出てきません。高崎や伊勢崎は出てくるのに、その女性が住む地域は「群馬の田舎町」です。とはいえ、そこは渡良瀬川が流れる織物産業が有名な町とされていて、どうやら桐生で間違いなさそうです。
▽のぼり旗が並ぶ白髭神社の参道
桐生の白髭神社は桐生市堤町2丁目、丸山の北東側の麓にあります。参道に立てられたたくさんの赤いのぼり旗が印象的な神社で、境内には桐生市指定天然記念物の「白髭神社のシラカシ」があります。『対岸の彼女』の作中に「白髭神社」のワードが出るのは、たった1カ所です。でも、それは過去のストーリーにおいて、とても重要シーンでした。作者がなぜこの実在の場所を選んだのか、大変興味深く思います。
▽白髭神社の境内。右は「白髭神社のシラカシ」
タイトルにある「対岸」は、渡良瀬川を挟んだ向こう側の岸として表現されています。例えば、白髭神社から西へ800mほど歩くと赤岩橋に至りますが、そこから見える渡良瀬川の風景はこんな感じです。
▽赤岩橋から見える渡良瀬川の風景
そこから下流へ行くと、こんな感じです。
▽渡良瀬川の風景。左は桐生大橋‐錦桜橋間。右は錦桜橋‐中通り大橋間。
実際の渡良瀬川はちょっと川幅が広すぎて、作品の「対岸」というイメージに合わない気がしたのですが、それは誤解でした。タイトルにつながる部分をしっかり読み解くと、そこで対岸を見ていたのは、渡良瀬川を知らないもう1人の女性(現在のストーリーを語る視点)であり、彼女が想像する風景の中。なるほど、腑に落ちる思いがしました。こういった視点の違いや時間軸の違いを体感できるところは、小説を読むことの面白さの一つですね。『対岸の彼女』、オススメの一冊です。
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