越境合併の地を歩く。桐生市に編入しダム湖に沈んだ入飛駒
市町村合併の際に都道府県の境をまたいで実施するものを越境合併といいます。戦後、全国で10例ほどしかない越境合併ですが、そのうちの2例が現在の群馬県桐生市にある地域です。1つは栃木県足利郡菱村の桐生市への編入、もう1つは栃木県安蘇郡田沼町入飛駒地区の編入です。今回は当時の入飛駒地区、現在の桐生市梅田町4丁目、梅田湖の東側周辺を紹介します。
▽梅田湖(左)と梅田大橋(右)。橋の先が当時の入飛駒地区。
この合併があったのは1968年(昭和43年)のことです。生活の多くを桐生市側に依存していたことと、先に実施された菱村の合併が影響したようです。しかし、話はこれで終わりません。上の画像で紹介した梅田湖はいわゆるダム湖ですが、これを形成している桐生川ダムの着工が、入飛駒合併の4年後にあたる1972年(同47年)。さらに10年後の1982年(同57年)に竣工しました。これにより、入飛駒の一部の地域も湖の底に沈みました。
桐生市内から県道66号線を梅田方面へ向かい、梅田大橋を渡ってすぐの所を左折した先、左側の沿道に石碑が立っています。風化して文字がかなり読みにくくなっていますが、「県境変更桐生市合併記念碑」と彫ってあります。隣の小さな石碑には「この合併記念碑は水没のため旧入飛駒小学校から移設する」とあり、入飛駒という地名があったことや、その後の水没のことが分かります。
▽合併記念碑(左)と、その移設を伝える石碑(右)
ちなみに、石碑があるあたりの対岸には、以前このサイトで紹介した梅田台緑地公園(https://hatanone.com/archives/180)があります。
「飛駒」という地名は田沼町と合併した栃木県佐野市に今も残っていて、市役所の出先機関である飛駒支所もあります。佐野市ホームページによると、飛駒とは、飛ぶように走る馬やその産地の意味で、伝承では『平家物語』の宇治川の先陣争いに登場する馬を生んだのがこの地域だそうです。支所の近くにはキャンプ場やコテージが揃う根古屋森林公園があり、敷地内の施設では伝統的な「飛駒和紙」の技術を伝えています。
▽佐野市に残る「飛駒」の地名(左)。飛駒町にある根古屋森林公園(右)
梅田大橋の先を石碑のほうへ左折せずに直進すると、皆沢という地区に至ります。この皆沢は旧入飛駒に属していた地区で、水没せずに残りました。皆沢八幡宮本殿は桐生市の重要文化財に指定されており、朱塗りの鮮やかさと精巧な彫刻が目を引きます。ここにも『平家物語』とのつながりがあるようで、案内板には「(八幡宮は)宇治川の先陣で名高い上野の武士、足利又太郎忠綱を祀っている」と書いてありました。このあたりに伝わる「皆沢地区の百万遍念仏」も市の無形民俗文化財に指定されています。
▽皆沢八幡宮本殿(左)と案内板(右)
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